ミカとの出会い

『ミカへ

bleachが最終回を迎えたそうだけど

自分で勧めておいて最後まで読まないのはどうかと思うよ。

あの時見たバンドがあの頃の曲をライブでやってるから見に行こうか』

 

レイカさんに誘われて花火をする事になったが、元来人見知りな性格であり、久し振りに人に会う事も重なって、とても緊張している。

 

その一方で、会いたいと言ってくれた妹さんと会える事を楽しみにしていたので、期待と不安が入り混じった気持ちで地下鉄に乗っていた。

 

レイカさんの家に着くと、レイカさんが出迎えてくれ、『もうみんな来てるよー』と言い、部屋を見るとそこにはレイカさんの他に2人の男性と2人の女性がいた。

人見知りだけに緊張したかま、そこにいるみんなは、レイカさんの人柄のせいか人当たりの良い、優しい感じの人達で少し安心しながらも

『どれが妹さんなんだろう』と考えていた。

 

するとレイカさんがそんな様子を察したのか『妹は遅れてくるそうだから、先に公園に行っちゃおう!』と言った。

って事はこの中には居ないって事か、と思いながら公園に移動し花火を始め、しばらくすると一人が僕らの近くに走り寄ってきた。

肩ぐらいの茶色い髪をした小柄な子だった。

全くレイカさんとはタイプは違うが、一目見て妹さんとわかった。

他のみんなとは面識があるようで『久しぶりー!』などと言いながらレイカさんの元に行き、僕は紹介された。

『これが前話した妹のアキだよ』

僕が人見知りを発揮している間にアキちゃんは話しはじめた。

 『おー!シンくんってこんな感じなんだー!バンドやってる感じだよね!』と言い、自分もライブが好きでよく行っているとか、僕の妹とアキちゃんが同じバンドが好きと言う事がわかり、元々レイカさんともライブで知り合った事や、兄弟同士が音楽の趣味が同じと言う事が面白いといった話をした。

 

僕が好きなアーチストの話をすると、『その人と彼氏が通ってる店がなんかコラボするらしいよー!』と言う話をされ、彼氏が居ることに少しガッカリしながらも、好きなアーチストのコラボの情報は知らなかったからテンションが上がった。

花火が終わり、一緒に地下鉄で帰りながらその店に連れて行って貰う約束をした。

 

そして、後日連れて行ってもらい目的の商品を買おうと、その棚でサイズを見ていると派手な見た目の女の子の店員さんが話しかけてきた。

『あー!それ今日から販売なんですよー!』

『ですよね、そう聞いて買いに来たんです』

そう答え終わらない内に

『わーっ、お兄さん超タイプ!どうしよ、ヤバい!』と言われ、そんな事を言われた事も無ければ、派手な人にそんな風に言われるような見た目でもない僕は『いやいや、そんな褒める接客しなくても買いますから』と言って会計に向かった。

するとレジでイベント参加券をくれたのだが、イベントの事を知らなかった為、

『イベント参加券ってなんですか?』そう訊くと『来週お店にこのアーチストが来るんですよー』と答えた。

絶対に来ようと思い、その告知の貼り紙を見るとその隣には『スタッフ募集』の貼り紙がしてあった。

1番好きなアーチストだし、ただイベントに参加するよりも、スタッフとして会えたら喋れるかもという期待から

『スタッフ募集してるんですか?』と訊くと、その女の子は『えっ!?働くんですか?ちょっと社長呼んできます!』と言って社長を呼んできてくれた。

社長は『まぁいつも居るからまた履歴書持ってきてよー』と言うので帰ってすぐに用意して、翌日の朝一番に持って行くことにした。

 

翌日、実際には起きられず昼過ぎにその店に着くと昨日の社長の姿が見えた。

『あの、すいません!昨日のお話で履歴書持ってくるって言った者です、朝一番に来ようと思ったのですがその時間はお忙しいかと思いまして今来ました』とたどたどしく、また言い訳がましく話すとその社長は

『おっ、ちゃんと今日持ってきたね!採用!』

と、履歴書も見ずに軽いノリで言った。

『えっ?いいんですか?』と僕がそう尋ねると

『今日履歴書を持ってくるって事はやる気があるって事だからね。明日以降持ってきても落としてたけど、やる気あるからお願いするよ』

そう言われ、そのままその日は働く事になった。

社長が、店長を紹介するよと言い昨日接客してくれた女の子を連れてきて『この子が店長の…』そう言うとその女の子は『ウチねぇ、ミカッチだよ!』と言った。

これがミカとの出会いだった。

ミカッチ…。

『ミカさんですね、よろしくお願いします。』僕がそう言うと『ミカッチって呼んでよー!ミカさんなんて呼んだら返事しないから!』

と言った。

ノリの軽い人だな、と思いながら昨日のタイプと言われた事を思い出した。

社長がどこかへ出掛けると、ミカは僕にこう言った。

『ホントに入ったんだねー!タイプだからめっちゃ嬉しい!昨日のは彼女?ウチも彼氏居るからいいんだけど』

何がいいのかは知らないけど、『昨日のは友達の妹さんで、あの子は彼氏居るから僕の彼女ではないよ』と言った。

『えー!?今彼女おらんの?カッコいいからモテるでしょ!?』とミカは驚いていたが、最近初めての彼女と別れた事や、モテた事は無いと言う事を話すと

『じゃあ経験人数も一人ってこと?』と聞いてきた。

初対面の異性にそんな事を訊かれるなんて考えた事も無かったので面食らっていると、答えも聞かずに話し続けた

『えー、絶対モテると思うのになぁ、ウチ彼氏と別れようと思ってるから付き合ってよ!』

とグイグイ来たため、さすがに僕も体験したことの無いあまりに不安になってきた。

『これはきっと社長が僕にスタッフに手を出さないかどうかのテストを仕掛けて来てるに違いないな』そう思い『モテてたら別れたショックで無職になってないからここで働いてないし、アキちゃんとも会ってないから、この店の事も知らなかったし』そう答えたが、ミカは『ほんとかなぁ』とずっと疑っていた。

 

ミカと知り合うまえの話

『ミカへ

ひとの期待に応えたかったのも、自分の希望を叶えたかったのも知ってるよ

それが相反する物だったとしても叶えようとしてただろ?』

 

ミカは僕を友達に会わせたがったり、よく行く店に連れて行って顔馴染みの店員に紹介するのが好きだった。

『シンちゃんって言うの、格好いいでしょう?』

そう言うと、言われた相手は一拍置いて

『あ、あー!男前だよね』

などと明らかに気を使って褒めてくれていた。

いつもなんだか申し訳ないと思ってはいたが、なによりミカが嬉しそうにしていたので、嫌な気分はしなかった。

 

ミカと初めて会ったのは、名前の似たエミカと別れた初夏だった。

エミカは僕が生まれてから初めて出来た彼女だから別れたのも初めてで、もっと言えば浮気をされたのも初めてだった。

その相手は毎日のように遊んでいた友人グループの中でも、自分から前に出るタイプではなく、口数は少ないものの一言が面白く顔立ちも整った、僕も大好きな友人だった。

 

原因が原因だけに悲しみや落胆ではなく、ただただ考える事に疲れてしまった挙げ句、新卒で入社したばかりの会社も辞めてしまった。

 

独り暮らしだったが、学生時代のアルバイトで貯めたお金が少しあったから、しばらくはそれで生活も出来るし、就職活動なんて新卒のそれしか知らないのだからどうやってやったらいいのかわからなかった。

今となっては世間知らずな上にメンタルも弱いという情けない事だけど、その時はそれしか出来なかった。

 

それに何より気力が無かった事が一番の問題だった。

 

住んでいたマンションにはケーブルテレビが引かれていて、契約をしていないのに音楽専門チャンネルが視聴出来た。

部屋は狭いけどそこが気に入っていたのだが、それまで忙しくしていたからあまり見ることもなかった。

会社を辞めてしまって友人との付き合いもやめて暇になってしまったので、やっとそれを毎日見る事が出来るようになったのに、あまり楽しんで見るというよりは、無気力に眺めて過ごしていた。

時折流れてくる音楽に合わせてギターを弾いてみたりしていた。

アヴリル・ラヴィーンのコンプリケイテッドとレッドホットチリペッパーズのバイザウエイが数時間毎に流れていた。

 

そんな生活をしている僕を見かねて『みんなで花火をやるからおいでよ』と誘ってくれた知人が居た。

僕は嬉しさ半分と、人に会うような生活をしていなかったから少し気が引けてしまっていたのだが『妹がシン君と会ってみたいって言うから呼んでもいいかな?』と言うので、俄然気合いを入れて出掛けて行った。

なにしろその知人はレイカさんと言って、外国人の少女のような美しさと可愛さがあるのに、とても人懐っこいながら真面目な人で、その妹さんに会えるならこっちとて一目見てみたい。

そう思うと無気力な生活の中で不純とは言え出掛ける気分になったのは大きな進歩だった。

はじめに

『ミカへ

ブッ飛んでるミカと繊細なミカと、いつも話し始めはどっちかよくわからなかったけど

その世界に触れられた時の事はよく覚えてるよ』

 

 

いつか誰かに話すかも知れなかったし、

誰にも話さなかったかもしれない話があるんだけど

それには沢山の登場人物が居て、沢山の話がある。

 

それは僕の人生の話なのかもしれないし、その人達の人生の話なのかもしれない。

 

色んな人が現れては僕を変えて消える。

人生の主人公は自分自身とはよく言うけど、ヒーロー物でも無い限り物語の中でどんな登場人物よりも主人公には特色なんて無かったりする。

その方が見る人を幅広く投影出来るから感情移入しやすいからだと思ってたけど

主人公って言うのはそう言う物なのかもしれない。